あっ危ない!!転倒を防ごう!
【新型コロナ】抗体さえあれば大丈夫?
新型コロナウィルスが初めて中国・武漢で確認されてから1年が経ちました。残念ながら、新型コロナウィルスは私たちの生活に入り込んでしまっています。
しかし、一方で1年前には全く分からなかったことが少しずつ分かってきたことも事実です。最近ではワクチンが開発されたという、希望の持てるニュースもありました。ワクチンに関連して、「抗体」という言葉をよく耳にするようになったかと思います。また最近では身近で抗体検査を受けることも可能になってきました。今回は、「抗体」についてお話したいと思います。
■抗体とは?
抗体とは、免疫作用の一つです。
ヒトの免疫作用にはいくつか種類がありますが、大きく分けると、
①兵隊(白血球)が直接外敵を食べる、
②兵隊(白血球)が飛び道具を用いて外敵を倒す、
の2つに分かれます。この②で使われる飛び道具は、敵ごとによってカスタマイズされたものになります。この武器がいわば抗体です。つまり、抗体とは敵の弱点を正確に突く、弓矢のようなイメージです。
この武器はまず敵を研究してから作られますので、抗体ができるには敵が体内に侵入してから時間がかかります。逆に言うと、あるウィルスに対して抗体があるということは、そのウィルスが一度は体内に侵入したことを意味します。
抗体はタンパク質でできており、いくつか種類があります。代表的なのがIgMやIgGと呼ばれるタンパク質です。通常、感染して数日後からIgMが増え始め、少し遅れてIgGが増えます。その後、IgMは減りますが、IgGは長期間残る、というパターンが一般的です。ワクチンを打つと、この抗体が人工的に体内で作られ、免疫作用を発揮するのです。
■抗体があれば大丈夫なの?
では、抗体さえできればもう二度と新型コロナウィルスにかからないのでしょうか?
実は、抗体が陽性であっても新型コロナウィルスにかかる可能性はあります。
一口に抗体と言っても、その働き方にはいくつかあります。その一つが、「中和」と言って、ウィルスを無力化する働きで、この抗体があればウィルスを撃退することができます。しかし、新型コロナウィルスに対する抗体は一つではなく、いくつか種類があります。どういうことかと言うと、ちょっと想像しにくいかも知れませんが、ウィルスはいくつかの部品(核酸やタンパク質)から出来ています。抗体は、この部品ごとに作られるのです。そして、これらの抗体は、あっても敵を撃退する機能を持たないことが多いのです。
また、有効な中和抗体がせっかくあっても、量が不十分だと感染は防げません。
例えば、同じくウィルスである麻疹や風疹、B型肝炎などは、抗体があっても数値が低いと感染を起こしうるため、ワクチンを再接種することがあります。
それでも、人の記憶のように、時間が経つと抗体の量が減ってしまうこともあります。
実際、新型コロナウィルス抗体検査が陽性であった人が約6か月後に再感染を起こした事例の報告もあります。
治験の結果からは、短期的にはワクチンに期待が持てることは間違いないですが、この効果がどれほど持続するかはこれから検証が必要です。
■抗体陽性でも油断せずに感染対策を
まとめますと、有効な抗体が十分にあれば新型コロナウィルスにはかからない可能性は高いですが、抗体陽性であっても中和抗体が十分でなかったり、感染から時間が経っていると再感染するリスクはあります。
検査で抗体陽性であったからといっても、残念ながら油断はできません。
やはり、マスク、手洗い、3密を避けるといった基本的な感染対策を徹底する、ということが重要になります。
夜間の頻尿!これって病気?
夜、トイレに起きる回数が増えたとご相談頂くことがあります。
何かの病気の前兆ではないかと心配になりますよね。
また、夜の尿回数が多いと、睡眠の質も低下してしまい、QOL(生活の質)の低下につながります。
今回は、夜間の尿回数が増えた時に考えられる原因と対応について述べさせて頂きます。
■大事なのは「出ている尿の量」
夜の尿回数が増えたと感じた時に、まず確認して頂きたいことがあります。それは、一回毎の尿の量です。正確な量まで計っていただく必要はありませんが、ジョロジョロと普通の量がでるのか、それともチョロっと出ておしまいなのかだけでも有用な情報です。
なぜかと言いますと、これにより考えられる原因が以下に述べるように異なってくるからです。
■一回の尿量が少ない場合
この場合、考えられるのは
・過活動性膀胱
・膀胱炎
・前立腺肥大症(男性の場合)
・神経因性膀胱
・便秘
・不眠症、うつ病
などです。
頻度が多いものとしては過活動性膀胱、前立腺肥大症です。これらは緊急性の高い病気ではなく、上手に付き合っていく必要があります。お薬を使うことで改善が見込めますが、副作用もあるため、日常生活に支障がなければ様子を見ることも多いです。
今までにも膀胱炎になったことがあったり、排尿時の痛み、残尿感、血混じりの尿を伴う場合には膀胱炎の可能性が高くなります。膀胱炎の場合は抗生物質を服用することで治ります。また、治療があまりに遅れると腎盂腎炎という重度の感染症に進むことがありますので、早めに主治医の先生にご相談下さい。
神経因性膀胱とは、排尿するための筋肉を動かす神経系の異常により起こります。ほとんどはすでに病気がある方(糖尿病、脳梗塞、脊髄の病気など)に起こります。こちらもお薬が有効です。
あとは、不眠症やうつ病により「眠れないからトイレに行く」というパターンもあるため注意が必要です。
■一回の尿量が普通~多い場合
こちらの方がより注意すべき場合です。
この場合、考えられるのは
・心不全
・腎不全
・糖尿病
・高血圧症
・お薬の副作用
などです。
体重が急に増えていたり、むくみが出てきた時は心不全や腎不全を疑う必要があります。
また、糖尿病により血糖値が高くなることで尿の量が増えることがあります。糖尿病は血液検査をしないと分かりませんが、市販の尿検査テープが参考になる場合もあります。
血圧が高かったり、お薬の副作用で尿の量が増えることもあります。
いずれにしてもこの場合は早めに主治医の先生にご相談した方が良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。夜間の頻尿にもたくさん原因があります。
一回の尿の量が大事な手掛かりになりますので、ぜひ確認してみて下さい。
何かありましたら主治医の先生、または当サイトの医師相談へご相談下さい。
お通じ、ちゃんと出ていますか?
お通じの習慣は非常に大切です。
私たちも便秘になると体調が悪くなってしまいますよね。特にご高齢の方は便秘により元気がなくなってしまったり、食欲が落ちてしまったり、お腹が痛くなってしまったりと、トラブルの元になります。また、認知症をお持ちの方では便秘により症状が悪化したりすることもあります。このように便秘は在宅療養の大敵です。
今回はお通じを良くするためのポイントをお伝えしたいと思います。
■便秘解消のポイント
まずは生活習慣の改善が基本になります。具体的には以下の内容です。
- 充分な水分
- 食物繊維
- 運動
これらはよく言われていることですが、毎日きちんと意識することでかなり変わってきます。
■水分
水分量と排便の量には比例関係があるというデータがあります。便秘の方はまず意識的に水分を多めにとるようにしましょう。200~300mlずつ目安に増やしていくのが良いと思います。水分を取るのが苦手、という方もおられると思いますが、一度にたくさん飲むのではなく、間隔を狭めて少しずつ取るのが良いでしょう。
ただし、病状によっては水分量が制限されている場合もあります(心不全や慢性腎臓病など)。
不安な時は主治医の先生に確認してみましょう。
■運動
運動をすることで腸の動きが活発になり、排便習慣の改善につながります。
運動といっても、可能な範囲で少し歩いたり、立ったりするだけでもOKです。
■食物繊維
1日18~20g摂取することが推奨されています。これはおよそリンゴ5~6個分に相当する量で、かなり多いと感じるかも知れません。しかし、食物繊維を多く含む食品をうまく組み合わせることで無理なく摂取できるようになります。
以下に食物繊維を多く含む食品の例を挙げます(カッコ内は食品100gあたりの食物繊維量)。
寒天(74.1g)
ひじき(51.8g)
切干大根(21.3g)
エンドウ豆(17.9g)
おから(11.7g)
大麦(10.3g)
※文部科学省「日本食品標準成分表2020年版」
特に大麦は白米に混ぜたりすると無理なく食べられて良いでしょう。
また、最近では水分によく溶ける粉末状の食物繊維も市販されていますので、お茶やお味噌汁に溶くのも良いと思います。
■お薬
以上のような生活習慣改善を試してもダメな時は、お薬に頼ることも必要です。主治医の先生に相談してみましょう。
ただ一方で、下痢になりすぎてしまい介護負担の増加につながる場合もあるなど、バランスを取るのが結構難しいので注意しましょう。
また、センナが主成分の下剤(赤い粒など)は、長期間毎日使うと効果が弱くなることがあります。もし効きが弱くなってきたと感じたらお薬の変更も検討して頂くと良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。参考にして頂ければ幸いです。
生活習慣を整えて、すっきりな毎日が過ごせるといいですね。
認知症の方の食事の摂り方
在宅療養されている方は様々な理由で食事の量が減ってしまうことがあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。
認知症をお持ちの方は、さらに特有の原因で食事量が変動します。
今回は特に認知症の方で考慮すべき原因と、その対応について述べさせて頂きます。
■認知症の仕組みが関係
それにはまず、認知症という病気の仕組みを理解すると良いかと思います。
認知症、特にアルツハイマー型認知症は脳の細胞が死んでしまうことで、脳の色々な部分が機能しなくなる病気です。認知症の特徴である記憶障害は、脳の記憶を担当する部分の細胞が死んでしまうことで起こります。
しかし、それ以外の脳の部分でも同じことが起こると、その部分が担当している機能によりさまざまな症状が出ます。
例えば、以下のような症状が起こります。
1. 失行
普段やりなれているはずの行為ができなくなってしまいます。例えば私たちが普段何気なくしている歯磨き一つとっても、脳の高度な機能をいくつも組み合わせて行っています。
服が着られなくなるなどが代表的な失行の症状です。
2. 失認
物を正しく認識できない、つまり物が何か分からなくなってしまいます。例えばコップをコップとして認識するにも、①まずコップを見る、②その特徴を捉える、③今までの記憶と照らし合わせる、④コップと認識する、といくつかの複雑なステップが必要なのです。
その機能が損なわれてしまうため、物を見ても正しく認識できなくなってしまいます。
3. 実行機能障害
これは名前の通り物事を実行する機能が落ちてしまう症状です。代表的な例は料理です。料理というのは、まず計画を立て、計画にそって食材を切ったり、調味料を加えたりします。また微妙な調節も必要になったりと、これもまた複雑なステップで成り立っています。
4. 注意障害
認知症をお持ちの方は、徐々に進行してくると入ってくる情報(音、視界など)を処理する力が衰えてきます。これにより周りの状況を理解することがどうしても苦手になってきてしまいます。そうすると周囲に気を取られやすくなり、集中することが難しくなってしまいます。
■症状に合わせた対応を
これらの症状に照らし合わせると、食事が進まない理由と取るべき対応が分かることがあります。
例えば、
1. 失行が原因
・お箸が使えない→スプーンにしてみる
・魚など食べ方が分からない→身をほぐしてみる
2. 失認が原因
・食べ物が何か分からなくなる→「これは~だよ。」「美味しそうな匂いがするね。」などと声かけしながら食べてもらう、食器の色を変えて食事を目立たせる
3. 実行機能障害が原因
・いくつかの料理を順序立てて食べられなくなる→ワンプレートや丼にしてみる
4. 注意障害が原因
・食事に集中できない→カーテンを閉める、TVを消すなど、外からの情報を少なくする
といった感じです。なかなか難しいですが、皆さん色々と工夫され、その方に合った方法を見つけておられます。正直、私たち医師でも驚く時があります。
それでも改善がない場合は、うつ病や身体の病気など他に原因が隠れている場合もあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。
ご心配な点がありましたら主治医の先生、もしくは当サイトの医師相談へお気軽にご相談下さい。
延命治療、する?しない?
少し前にポスターで話題となった「人生会議」をご存知でしょうか?
人生会議とは簡単に言うと、万一の時に延命治療を行うかどうか、大切な人たちと話し合っておきましょう、という内容です。
皆さまは「延命治療」に対してどんなイメージを持っておられますか?
あまりポジティブなイメージを持つ方は多くないのではないでしょうか。
今回は、延命治療とは何か、またどのように考えていくべきかについて述べさせて頂きたいと思います。
■「延命治療」とは?
そもそも、延命治療とは一体どのような治療なのでしょうか?
実は延命治療には明確な定義はないようです。
平成20年の日本学術会議の資料(第1回終末期懇談会対外資料)によると、「終末期であることを前提にして考えるなら、「延命処置とは生命維持処置を施すことによって、それをしない場合には短期間で死亡することが必至の状態を防ぎ、生命の延長を図る処置・治療のことをいう」というのが、妥当な定義と思われる。」とされています。
少し分かりにくいですが、延命治療というのは、
1. 終末期(=回復の見込みがなく予想される残りの寿命が少ない時期)に
2. 短期間で亡くなることを防ぎ、命を永らえるために行う治療
と言えます。
具体例を挙げますと、脳死と診断された方への人工呼吸器、癌であと数週間の方への胃瘻、老衰の方への点滴などです。
ただし延命治療の中身は多岐に渡り、心臓マッサージすらも場合によっては延命治療となり得ます。
医学的には延命治療を選ぶべきかどうかは正解がなく、医師の間でも考え方が分かれ、結局は個々人の価値観次第ということになります(ちなみに、すでに回復が見込めないためどちらを選択しても倫理的な問題は生じませんし、ガイドラインも最近いくつかでております)。
延命治療は、寿命を延ばすという効果が期待できますが、ご本人に苦痛を伴うデメリットがあります。
ちなみにどのような延命治療であっても苦痛は伴います。
例えば、意外かも知れませんが、点滴ひとつとっても針を刺す痛みがありますし、管につながること自体が苦痛になる場合があります。
延命治療を選択しない場合は、寿命は短くなりますが、苦痛は少ないと思われます。
■延命治療の難しさ
理屈の上ではこのメリット、デメリットを天秤にかけて意思決定するということになっています。
しかし、実際の現場においては、実はこれがとても難しいのです。
というのも人によって、さらには同じ人でもその時々によって感じ方が全くことなるからです。
例えば終末期というところに関しても、どこからが終末期なのか、残り数か月なのか数日なのかでも感じ方が違いますし、延命治療でどれくらい寿命を延ばしたいのかも異なります。
また、そのための苦痛をどこまで受け入れられるのかも人によって違うでしょう。
さらに難しいことに、このようなことを考える状況では、もはや本人の意識がなかったり、意思を確認できない場合がほとんどです。
その場合はやむを得ず関係者が話し合って決定していることが多いです。
私自身は、「延命治療というものが全て良くない」とは思っていません。
なぜなら、お別れへの準備期間が必要な場合があるからです。
実際、私の経験上でも、最初は「これは延命治療でないかな…」と思っていた例がありました。
しかし、結果的にご本人とご家族がゆっくりと時間を過ごすことができて、とても有意義な最期を迎えることができました。
■延命治療を決める上で大切なこと
一概に「延命治療を希望する、しない」だけでなく、遺される大切な人の気持ちも考慮した上で、自身がどのような状態になったら延命治療をしないで欲しいのか、最期の時に何を大事にしたいのかをよく話し合う必要があります。
これが「人生会議」なのだと思います。
確かに、これを話し合うことは気持ちの良いものではないかも知れません。しかし、自分自身にとっても、遺される人たちにとっても、大切なことであると思います。延命治療について分からないことがあれば主治医の先生や、当サイトの医師相談にお問い合わせ下さい。