認知症の予防方法(3)
前回から引き続き認知症予防の方法についてご紹介します!
今回は、
・生活習慣病の改善
・社会との交流
についてご説明させて頂きます。
◆生活習慣病の改善
高血圧、糖尿病といった生活習慣病は、認知症のリスクになることが知られています。
また、これらを悪化させる要因である喫煙や肥満も、やはり認知症のリスクとなります。
ある研究では、アルツハイマー型認知症の最大約50%が、これら4つのリスクに加えて、運動不足などの3つを足した計7つのリスクのせいで起こっている、という結果が出ています。
(少し難しい話ですが、これら7つのリスクが無くなれば、個人がアルツハイマー型認知症になる確率が半分になるわけではありませんのでご注意ください。)
分かりにくいかも知れませんが、要するに高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病は、認知症のリスクとなります。
生活習慣病をお持ちの方は、認知症のリスクを減らすためにも、しっかりと治療しましょう!
◆社会との交流
今は新型コロナウィルスの影響でなかなか難しいですが、行事やイベントに参加して、他の人たちとお話をしたり交流をすることは、認知症の予防につながります。
軽度認知障害(認知症の前段階。略してMCIといいます)の方たち816名を3年間追いかけ、どんな方が認知症に進んだかを調べた研究があります。
この研究では、家族の行事、友人宅への訪問、同好会、外食、教会への礼拝などへの参加状況について調べています。
その結果、行事やイベントに参加する種類と頻度が多い方たちでは、認知症に進む割合が低かったという結果でした。
年齢を重ねると、仕事を退職したり外出の機会が減ったりと、どうしても外との交流がへってしまいがちです。
しかし、そのまま自宅に閉じこもってしまうことで認知症になりやすくなってしまうかも知れません。
自分の興味があることや好きなことを見つけて、積極的に外に出ていくことで、気分も明るくなり、元気に過ごし続けられると思います。
以上、3回にわたり認知症の予防方法についてお話させて頂きました。
いかがでしたでしょうか。
意外と、「簡単でよく効く方法はないな…」と思われたのではないでしょうか?
例えば、「飲むだけで認知症が予防できる!」とか。
確かにそんな方法があったらいいですよね!
しかし、そのような薬やサプリが開発されるのはまだまだ先のようです。
まずは、小さいながらちゃんと効果があることを地道に積み重ねていくことが大切だと思います。
とりあえず何か一つ、始めてみませんか?
<終>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
認知症の予防方法(2)
今回は、認知機能トレーニングの効果についてご紹介します。
前回、今のところ研究でしっかりと効果が示されているのは以下の3つであることをお伝えしました。
・運動
・認知機能トレーニング
・生活習慣病の改善
・社会との交流
認知機能トレーニングにどのような効果が証明されているのかを今回ご説明します。
◆認知機能トレーニング
認知機能トレーニングとは、いわゆる「脳トレ」で、頭を使うトレーニングです。
このトレーニングの効果については大小様々な研究がありますが、一番規模の大きい研究をご紹介します。
この研究では、認知症になっていない高齢者2,832名を対象に、
①推論トレーニング
…一定のパターンを読み取って問題を解くゲーム(例:数字の配列から次の数字を予測する)
②記憶トレーニング
…たくさんあるものを効率よく記憶するゲーム
③処理速度トレーニング
…短い時間に課題をクリアする、タイムトライアル的なゲーム
の3種類のトレーニングを受けてもらい、その効果を調べました。
その結果、10年後にはトレーニングをしていない人たちと比べて、トレーニングを受けた人たちの方が、より自立力が高い(=自分の力で生活を送る能力が高い)という結果でした。
残念ながらトレーニングを受けた人たち、受けていない人たちともに10年間で自立力は低下してしまっていますが、トレーニングを受けた人たちの方が低下はゆるやかでした。
特に、③の処理速度トレーニングを受けた人たちでの効果が一番高く、このトレーニングを受けた人たちは、何もトレーニングを受けていない人たちと比べて、約1.5倍、自立力が高いという結果でした。
この結果だけで「脳トレは認知症を予防します!」とまでは強く言えませんが、少なくとも自立した生活を送るうえで良い効果が期待できると思います。
市販されているものでは、例えば、
①の推論トレーニングは、クロスワードパズルや数独が該当します。
また、②の記憶トレーニング、③の処理速度トレーニングは、任天堂スイッチのゲームである「脳トレ」(任天堂ホームページへ)
の中にも含まれています。
元気で暮らし続けるためにも、少しずつ毎日の習慣にしてみてはいかがでしょうか。
次回も引き続き認知症予防についてご紹介します!
<終>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
認知症の予防方法(1)
これから高齢化が進むにつれて、認知症をお持ちの方は増えてくると予想されています。
2025年には5人に1人が認知症を持つという内閣府の推計もあります。
このように認知症は、もはや誰がなってもおかしくない病気となりました。
しかし、残念ながらまだ有効な治療薬がないのが現状です(2022年1月時点)。
そうなってくると、誰もが日頃から予防を心がけることが大切です。
今回は、科学的に効果が証明されている認知症の予防方法を、複数回にわたってお伝えしたいと思います。
◆認知症の予防
今のところ、研究でしっかりと効果が示されているのは以下の3つです。
・運動
・認知機能トレーニング
・生活習慣病の改善
・社会との交流
「え?これだけ?」と思われたかも知れません。
もう少し細かく見ていきましょう。
◆運動
有酸素運動(ウォーキング、自転車など長く続ける運動)が認知症を予防するという研究結果が出ています。
認知症まではいかないものの、認知機能が通常より低下している状態を、認知症の前段階としてMCI(軽度認知障害の略)と呼びます。
そしてMCIの状態の方の一部が認知症に進んでしまうことが分かっています。
このMCIの人たちに、有酸素運動を定期的にしてもらうと、運動をしていない人たちに比べて認知機能が改善するという、複数の研究結果があります(参考文献)。
劇的な効果とまではいきませんが、定期的な有酸素運動は体力の低下も防ぎますし、オススメです。
なお残念ながら、認知症を発症してしまった後では認知機能の改善効果は認められていませんが、適度な運動自体は良いことです。
認知症をお持ちの方でも、可能な範囲で積極的に運動されると良いと思います。
どれくらい運動するとよいのかまでは分かっていませんが、週に150時間(30分を週5日)あたりが目安です。
もちろん、「そんなにできない!」という方はもっと少なくても大丈夫です。
(持病が不安な方は、一度かかりつけの先生に相談してみましょう。 )
まずは始めてみて、少しずつでも長く続けることが大切だと思います。
次回は認知機能トレーニングについてご紹介します。
お楽しみに!
<終>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
認知症の方の食事の摂り方
在宅療養されている方は様々な理由で食事の量が減ってしまうことがあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。
認知症をお持ちの方は、さらに特有の原因で食事量が変動します。
今回は特に認知症の方で考慮すべき原因と、その対応について述べさせて頂きます。
■認知症の仕組みが関係
それにはまず、認知症という病気の仕組みを理解すると良いかと思います。
認知症、特にアルツハイマー型認知症は脳の細胞が死んでしまうことで、脳の色々な部分が機能しなくなる病気です。認知症の特徴である記憶障害は、脳の記憶を担当する部分の細胞が死んでしまうことで起こります。
しかし、それ以外の脳の部分でも同じことが起こると、その部分が担当している機能によりさまざまな症状が出ます。
例えば、以下のような症状が起こります。
1. 失行
普段やりなれているはずの行為ができなくなってしまいます。例えば私たちが普段何気なくしている歯磨き一つとっても、脳の高度な機能をいくつも組み合わせて行っています。
服が着られなくなるなどが代表的な失行の症状です。
2. 失認
物を正しく認識できない、つまり物が何か分からなくなってしまいます。例えばコップをコップとして認識するにも、①まずコップを見る、②その特徴を捉える、③今までの記憶と照らし合わせる、④コップと認識する、といくつかの複雑なステップが必要なのです。
その機能が損なわれてしまうため、物を見ても正しく認識できなくなってしまいます。
3. 実行機能障害
これは名前の通り物事を実行する機能が落ちてしまう症状です。代表的な例は料理です。料理というのは、まず計画を立て、計画にそって食材を切ったり、調味料を加えたりします。また微妙な調節も必要になったりと、これもまた複雑なステップで成り立っています。
4. 注意障害
認知症をお持ちの方は、徐々に進行してくると入ってくる情報(音、視界など)を処理する力が衰えてきます。これにより周りの状況を理解することがどうしても苦手になってきてしまいます。そうすると周囲に気を取られやすくなり、集中することが難しくなってしまいます。
■症状に合わせた対応を
これらの症状に照らし合わせると、食事が進まない理由と取るべき対応が分かることがあります。
例えば、
1. 失行が原因
・お箸が使えない→スプーンにしてみる
・魚など食べ方が分からない→身をほぐしてみる
2. 失認が原因
・食べ物が何か分からなくなる→「これは~だよ。」「美味しそうな匂いがするね。」などと声かけしながら食べてもらう、食器の色を変えて食事を目立たせる
3. 実行機能障害が原因
・いくつかの料理を順序立てて食べられなくなる→ワンプレートや丼にしてみる
4. 注意障害が原因
・食事に集中できない→カーテンを閉める、TVを消すなど、外からの情報を少なくする
といった感じです。なかなか難しいですが、皆さん色々と工夫され、その方に合った方法を見つけておられます。正直、私たち医師でも驚く時があります。
それでも改善がない場合は、うつ病や身体の病気など他に原因が隠れている場合もあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。
ご心配な点がありましたら主治医の先生、もしくは当サイトの医師相談へお気軽にご相談下さい。