お口の健康と在宅療養
在宅生活を続けていくにあたって、誤嚥性肺炎は大敵です。
誤嚥性肺炎とは、飲み込みの力が弱くなることによってうまく食べ物が飲み込めず、肺に食べ物が入ってしまうことで起こる肺炎です。
飲み込みの力は、認知症や脳卒中といった病気だけでなく、年齢を重ねるだけでも落ちてしまいます。そのため、人生の晩期を在宅で過ごす方達に、飲み込み力が落ちている方が多いことも容易に想像がつくかと思います。
私もこれまで、誤嚥性肺炎のため入院せざるを得なくなってしまった在宅患者さんを多く見てきました。中にはその入院をきっかけに、自宅に戻れなくなってしまった方もいらっしゃいました。
何とかこの誤嚥性肺炎を防ぐ方法はないのでしょうか。そもそも飲み込み力が落ちても元に戻れば理想的なのですが、一度落ちてしまった飲み込み力を完全に戻すのはなかなか困難です。実は、純粋に食べ物だけが肺に入るのであれば誤嚥性肺炎は起こりません(厳密には化学的な刺激により一時的な肺炎になることはありますが、いわゆる誤嚥性肺炎とは異なります)。この時に口の中で繁殖した細菌が一緒に肺に入り、肺の中でさらに増えてしまうことで肺炎が起こるのです。つまり、口の中がキレイであれば、誤嚥性肺炎は起こりにくいのです。
そこで口腔ケアが重要になってきます。
在宅の誤嚥性肺炎とは少し異なりますが、入院中の患者さんに口腔ケアを行い、病院内での肺炎が予防できるかを検証したデータがあります1)。
これによると、口腔ケアを行うことで院内での肺炎が約25%減少したという結果でした。完全に無くせるわけではありませんが、肺炎で入院する大事を考えると口腔ケアの効果は大きいと思います。
とはいえ、なかなか口腔ケアが難しいという場合もありますよね。そんな時は訪問歯科を検討されてはいかがでしょうか。
また、最近の訪問歯科では嚥下リハも実施して頂けるところもありますので、飲み込み力のアップも期待できます。
食べることは私たち人間にとってもっとも大切なことの一つではないでしょうか。
少しでも長く口から食べられることはもちろんですが、住み慣れた場所で過ごせるためにも、お口の健康にも気を配っていきたいですね。
1) Cochrane Database Syst Rev. 2016 Oct 25;10(10):CD008367.