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care-eco's magazine

2021/12/25

「胃ろう」ってどんなもの?

皆さんは、「胃ろう」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 

また、聞いたことがある方は、胃ろうにどんなイメージをお持ちでしょうか?


近年は胃ろうに対して良くないイメージをお持ちの方も増えているように感じます。

今回は、「胃ろうってどんなもの?」「実際やった方がいい?だめ?」といった疑問にお答えしたいと思います。


<目次>

◆胃ろうってなに?

◆どうやって穴を開けるの?

◆何のためにやるの?

◆どんなメリットがある?デメリットは?

◆胃ろうは悪いこと?点滴の方がいい?

◆ご本人にとって何が大切か


◆胃ろうってなに?

まず、そもそも胃ろうとは何でしょうか。

胃ろうというのは簡単に言うと、お腹から胃に穴を開けて管を通し、口からでなく管を通じて外から胃へ、直接栄養剤を注入する方法です。

管は柔らかいプラスチックで出来ています。胃の中に入れてから水風船を膨らませて、抜けないようにします。


写真:胃ろうチューブの例


また、胃ろうは必要がなくなれば外すことができます。その場合、穴もふさがります。


◆どうやって穴を開けるの?

「お腹に穴を開ける」というと、とても怖い感じがしますよね。


大丈夫!?と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実は胃というのはみぞおちのすぐ裏にあるので、外から簡単に穴を開けられるのです(胃の場所によってはできない方もいます)。

しかも実際の穴は直径10㎜未満で、大きい穴ではありません。

大がかりな手術が必要なわけではなく、胃カメラを使って30分ほどでできます。


しかし、全く安全とも言えず、出血したり腹膜炎(お腹の中にバイ菌が入る病気)を起こして残念ながら亡くなる方が約1%ほどおられます。


◆何のためにやるの?

一言で言えば、口から食事を食べられない場合に、生きていくのに必要な栄養(カロリー、タンパク質、ビタミンなど)を摂るためです。


私たちは、ふつうに口から食事を摂って栄養にして生きています。

しかし、様々な理由で口から食事を摂ることができなくなってしまう場合があります。


例えば、飲み込みの力が弱ってしまった時です。

普段はあまり意識していないと思いますが、食べ物を飲み込むためには、のどの筋肉がきちんと正確に動く必要があります。

そうしないと、食べ物が肺に入ってしまい、窒息や誤嚥性肺炎の原因となります。


しかし脳の病気によるマヒなどで、のどの筋肉が動かなくなってしまうことがあります。

重度の場合には、口から食べ物を食べることが一切できなくなってしまうのです。

あとは、がんで胃や食道が詰まってしまう場合もあります。


胃ろうはもともと、そのような方たちが生きていけるように開発されたのです。


◆どんなメリットがある?デメリットは?

・メリット

口から食事が摂れなくとも栄養不足を防ぐことができ、寿命を延ばせる可能性があります。

また、栄養が十分摂れることで、じょくそう(床ずれ)を防げる可能性があります。


参考記事:褥瘡(床ずれ)の効果的な予防方法


・デメリット

一番は、胃ろうの効果についてまだよく分かっていないことが多い、という点です。

実はこれまでの研究では、胃ろうによって寿命や生活の質が改善する、というデータは少ないのです。

これはあくまで平均的な結果なので、一概に全員に効果がないということではありませんが、「効果がある人もいるが、ない人も多いかも知れない」ということです。


あとは、先ほどもありましたが、胃ろうを作る際に1%の方が亡くなる可能性があります。


また、実は胃ろうを作った後も誤嚥は残ります(唾液や胃からの逆流物を誤嚥します)。そのため痰が増え、定期的に痰を取る処置が必要になる方もいます。

栄養剤を使用することにより、副作用で下痢する方もおられます。


◆胃ろうは悪いこと?点滴の方がいい?

このようなメリット、デメリットがある胃ろうですが、実際やった方がいいのでしょうか。


実は、胃ろうの良し悪しを判断することは非常に難しいのです。

なぜなら、胃ろうを始めた後の経過が人によって全然違うからです。


例えば、脳梗塞によるマヒで口から食事が食べられない人が、胃ろうをしながら栄養を摂りつつリハビリを頑張り、また口から食べられるようになって胃ろうを外せた、という人もいます。

このような場合は胃ろうをやってとてもよかったと思います。


一方で、認知症が進んでしまい意識がなくて食べられないような場合には、意識がないまま胃ろうから栄養を続けられることが苦痛に思う方もいらっしゃるかも知れません。


このような場合には、いわゆる「延命治療」に該当する可能性があります。


参考記事:延命治療、する?しない?


私自身は、延命治療が必ずしも悪いことだとは思っていません。

なぜなら、お別れまでにある程度の準備期間が必要な場合もあるからです。

延命治療を選択して後悔されたご家族もいらっしゃれば、延命治療を選択せずに、ご家族の心の準備ができる前にお別れになってしまったケースもありました。


このように、胃ろうをすべきかどうかには正解がなく、その人ごとにベストな方法を考えていかなければなりません。

大切なことは、「これからどんな経過をたどっていくのか」という鮮明なイメージを、ご本人、ご家族、関係者が共有し、それぞれの思いを話し合うことだと思っています。


また、「胃ろうは延命治療だから良くないと聞いた。点滴の栄養をやってほしい。」というお話を伺うことがよくあります。

確かに栄養剤を点滴する方法(中心静脈栄養といいます)もありますし、点滴の方が良い場合もあります。

ただ、点滴での栄養であっても、回復の見込みがない方にする場合には延命治療になり得ます。


また、点滴の栄養でもデメリットがあります。

一つは、点滴のところからバイ菌が入り、感染を起こす危険があること、もう一つは、点滴に時間がかかるため、1日のうちほとんどが管につながった状態になってしまうことです。

ちなみに現代の医療常識では、胃腸に問題がなければ、まずは胃ろうなどの胃腸からの栄養剤から始めることとされています。


このように、「胃ろうがダメで点滴は良い」ということではなく、「口から食べられない時に外から栄養を入れるかどうか」が問題なのです。


◆ご本人にとって何が大切か

今までお話したように、口から食べられなくなった時にどうするかを決めるのは正しい答えがなく、とても難しいことです。


一つの目安は、「今後回復する見込みがどれくらいあるのか」です。回復する見込みが高いのであれば、積極的にやってもよいのかなと思います。

これについては、主治医の先生方に聞いてみるのが一番です。


難しいのは、「回復する見込みがない」時です。

延命治療がすべて悪いわけではありませんが、場合によってはご本人が望まない延命治療につながる可能性があります。


大切なことは、ご本人が何を望んでいるか、何を大切にしたいかと考えることなのだな、と日々感じます。


栄養を摂るということは、命に直結します。

ご本人、ご家族、そのほかの関係者みんなで話し合って、納得できる最善の方法を選択するしかないと思います。

<終>


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安間 章裕(アンマ アキヒロ)
日本内科学会認定総合内科専門医・日本感染症学会認定専門医
2010年 浜松医科大学医学部卒業。亀田総合病院総合診療科、感染症科での研鑽を経て、茨城で在宅医療の立ち上げを行う。その後、地元である静岡県で感染症業務、在宅医療に携わっている。