2021/02/19
【インタビュー】篠原 彰先生(篠原医院院長・静岡県医師会前会長)
篠原先生は、静岡県焼津市で医院を開設されておられ、30年以上前から在宅医療を実践されています。今でこそ注目されている在宅医療ですが、当時はまだまだその重要性は認識されておりませんでした。
その先見の明には敬服するばかりです。
また、第17代静岡県医師会長として、在宅医療の発展に尽力された方でもあります。
今回は、篠原先生に在宅医療に対する想いを伺いました。
■お父上の影響で在宅医療の道に
もともと父が開業医をしておりました。当時はまだ車が普及していない時代でしたので、動けなくなってしまった患者さんに往診に行くことは当たり前でした。父がスクーターで往診に出かけていく姿をよく覚えています。また、まだ夜間救急センターなど整備されておりませんでしたから、夜中に急患の方が来たり、家に救急車が来たりしていました。
在宅医療が入院、外来に続き第3の医療形態として医療構想に位置づけられたのは1994年ですが、私は父の影響もあり、在宅医療が外来の延長線にあることが当たり前だと思っていました。
■苦悩の勤務医時代
昭和60年に37歳で東京から地元に帰ってきたのですが、それまで大学で血液内科(白血病など血液の病気を専門とする科)をやっていました。
勤務医時代には色々な経験を積むことができましたが、当時はまだ治療法も少なく、亡くなる患者さんばかりでした。そんな状況に無力感を感じていたのです。
専門科に特化することも大切なのですが、医者は本当は「人」を診なければならない、と思っています。そのために、医者は視野を広くもたなければならないと常々思っておりますし、業界にこだわらず色々な方と交流するように努めています。
寄り添い、頼られ、「診てもらってよかった」と言われる医者になりたいですね。
■地元に帰ってきて気付いたこと
地元に帰ってきて父の後を継ぎました。そこで気付いたことが、お年寄りの方がこれほど多いのか、ということです。
当時は、高齢の方の医療費は無料で、老人ホームも少ない状況でしたから、高齢で動けなくなると最期まで病院で過ごすという方が多かったです。
外来にかかっていた患者さんが入院し、そのままお別れ、ということもよくありました。
しかし、私の診ていた患者さんは、ほとんどが皆ご自宅で最期を迎えられました。
これまで入院を希望したのは2名。よく覚えています。お一人は末期がんの方で、苦しむ姿をご家族が見ていられなかった。もう一人は、最期までできることをやり尽くしたいという思いで入院を希望しました。
その他の方は皆、ご自宅で看取っています。3年連続で大晦日、元旦にお看取りしたことをよく覚えています。
診療所の医者の役割は、人生の最期までお付き合いすることだと思っています。これが医療の在り方だと思っています。
■住み慣れた場所で穏やかに
母は5~6年前に亡くなりましたが、最期は自宅で穏やかに過ごしました。96歳でしたが、亡くなる直前まで元気で、食事もよく食べていました。
私は、患者さんを診るときには必ず脈を取ります。これは医学的な意味もありますが、それよりスキンシップのためです。このように、顔を合わせ、肌を触れることで安心してもらえます。
患者さん方を診ていて思うのは、たとえ何歳であっても「生きている楽しみ」が大切である、ということです。ただ生きているだけでは辛いのではないのでしょうか。
介護保険法にも書いてある通り、私は、人間は最期まで尊厳を持つことが大事なのだと思っています。
■多職種連携の大切さ
在宅医療を実践する中で、絶対に一人ではできないということを実感しました。
平成7年に地域の医師会会長を任せて頂いたのですが、医師会の会議などで在宅診療の時間が減ってしまいました。その時に代わりに対応してくれたのが院内の看護師さんたちでした。
介護保険法ができたばかりのころ、訪問看護事業や、ヘルパーステーションの立ち上げを行いましたが、これが本当に大変だった。当時はまだ行政も慣れていませんでしたし、自分たちで全て調べて作り上げました。ヘルパーの制度も無かったため、ヘルパーさんの育成から始めました。一期生が今でも3名、現役のヘルパーとして働いてくれています。
毎回、自分が関わるすべてのケアマネさんにはメールアドレスを渡して、何かあればすぐにメールしてもらっていましたし、ケアカンファレンスは必ず開いています。
■在宅医療は「ワンチーム」
私はもともとラガーマンでした。
今でもラグビーの試合を見ていると体がウズウズします。
ラグビーの言葉を借りると、在宅医療は「ワンチーム」だと思っています。
(終)
いまでこそ、在宅医療における連携が叫ばれていますが、その重要性を10年以上前から気付き、実践されておられた篠原先生。
そのスピリットに学ぶことは多いのではないでしょうか。
篠原先生、ありがとうございました。