延命治療、する?しない?
少し前にポスターで話題となった「人生会議」をご存知でしょうか?
人生会議とは簡単に言うと、万一の時に延命治療を行うかどうか、大切な人たちと話し合っておきましょう、という内容です。
皆さまは「延命治療」に対してどんなイメージを持っておられますか?
あまりポジティブなイメージを持つ方は多くないのではないでしょうか。
今回は、延命治療とは何か、またどのように考えていくべきかについて述べさせて頂きたいと思います。
■「延命治療」とは?
そもそも、延命治療とは一体どのような治療なのでしょうか?
実は延命治療には明確な定義はないようです。
平成20年の日本学術会議の資料(第1回終末期懇談会対外資料)によると、「終末期であることを前提にして考えるなら、「延命処置とは生命維持処置を施すことによって、それをしない場合には短期間で死亡することが必至の状態を防ぎ、生命の延長を図る処置・治療のことをいう」というのが、妥当な定義と思われる。」とされています。
少し分かりにくいですが、延命治療というのは、
1. 終末期(=回復の見込みがなく予想される残りの寿命が少ない時期)に
2. 短期間で亡くなることを防ぎ、命を永らえるために行う治療
と言えます。
具体例を挙げますと、脳死と診断された方への人工呼吸器、癌であと数週間の方への胃瘻、老衰の方への点滴などです。
ただし延命治療の中身は多岐に渡り、心臓マッサージすらも場合によっては延命治療となり得ます。
医学的には延命治療を選ぶべきかどうかは正解がなく、医師の間でも考え方が分かれ、結局は個々人の価値観次第ということになります(ちなみに、すでに回復が見込めないためどちらを選択しても倫理的な問題は生じませんし、ガイドラインも最近いくつかでております)。
延命治療は、寿命を延ばすという効果が期待できますが、ご本人に苦痛を伴うデメリットがあります。
ちなみにどのような延命治療であっても苦痛は伴います。
例えば、意外かも知れませんが、点滴ひとつとっても針を刺す痛みがありますし、管につながること自体が苦痛になる場合があります。
延命治療を選択しない場合は、寿命は短くなりますが、苦痛は少ないと思われます。
■延命治療の難しさ
理屈の上ではこのメリット、デメリットを天秤にかけて意思決定するということになっています。
しかし、実際の現場においては、実はこれがとても難しいのです。
というのも人によって、さらには同じ人でもその時々によって感じ方が全くことなるからです。
例えば終末期というところに関しても、どこからが終末期なのか、残り数か月なのか数日なのかでも感じ方が違いますし、延命治療でどれくらい寿命を延ばしたいのかも異なります。
また、そのための苦痛をどこまで受け入れられるのかも人によって違うでしょう。
さらに難しいことに、このようなことを考える状況では、もはや本人の意識がなかったり、意思を確認できない場合がほとんどです。
その場合はやむを得ず関係者が話し合って決定していることが多いです。
私自身は、「延命治療というものが全て良くない」とは思っていません。
なぜなら、お別れへの準備期間が必要な場合があるからです。
実際、私の経験上でも、最初は「これは延命治療でないかな…」と思っていた例がありました。
しかし、結果的にご本人とご家族がゆっくりと時間を過ごすことができて、とても有意義な最期を迎えることができました。
■延命治療を決める上で大切なこと
一概に「延命治療を希望する、しない」だけでなく、遺される大切な人の気持ちも考慮した上で、自身がどのような状態になったら延命治療をしないで欲しいのか、最期の時に何を大事にしたいのかをよく話し合う必要があります。
これが「人生会議」なのだと思います。
確かに、これを話し合うことは気持ちの良いものではないかも知れません。しかし、自分自身にとっても、遺される人たちにとっても、大切なことであると思います。延命治療について分からないことがあれば主治医の先生や、当サイトの医師相談にお問い合わせ下さい。