在宅お役立ち情報

care-eco's magazine

2020/12/23

認知症の方の食事の摂り方

在宅療養されている方は様々な理由で食事の量が減ってしまうことがあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。 

認知症をお持ちの方は、さらに特有の原因で食事量が変動します。

今回は特に認知症の方で考慮すべき原因と、その対応について述べさせて頂きます。


■認知症の仕組みが関係

それにはまず、認知症という病気の仕組みを理解すると良いかと思います。

認知症、特にアルツハイマー型認知症は脳の細胞が死んでしまうことで、脳の色々な部分が機能しなくなる病気です。認知症の特徴である記憶障害は、脳の記憶を担当する部分の細胞が死んでしまうことで起こります。

しかし、それ以外の脳の部分でも同じことが起こると、その部分が担当している機能によりさまざまな症状が出ます。

例えば、以下のような症状が起こります。


1. 失行

普段やりなれているはずの行為ができなくなってしまいます。例えば私たちが普段何気なくしている歯磨き一つとっても、脳の高度な機能をいくつも組み合わせて行っています。

服が着られなくなるなどが代表的な失行の症状です。


2. 失認

物を正しく認識できない、つまり物が何か分からなくなってしまいます。例えばコップをコップとして認識するにも、①まずコップを見る、②その特徴を捉える、③今までの記憶と照らし合わせる、④コップと認識する、といくつかの複雑なステップが必要なのです。

その機能が損なわれてしまうため、物を見ても正しく認識できなくなってしまいます。


3. 実行機能障害

これは名前の通り物事を実行する機能が落ちてしまう症状です。代表的な例は料理です。料理というのは、まず計画を立て、計画にそって食材を切ったり、調味料を加えたりします。また微妙な調節も必要になったりと、これもまた複雑なステップで成り立っています。


4. 注意障害

認知症をお持ちの方は、徐々に進行してくると入ってくる情報(音、視界など)を処理する力が衰えてきます。これにより周りの状況を理解することがどうしても苦手になってきてしまいます。そうすると周囲に気を取られやすくなり、集中することが難しくなってしまいます。


■症状に合わせた対応を

これらの症状に照らし合わせると、食事が進まない理由と取るべき対応が分かることがあります。

例えば、


1. 失行が原因 

・お箸が使えない→スプーンにしてみる

・魚など食べ方が分からない→身をほぐしてみる


2. 失認が原因

・食べ物が何か分からなくなる→「これは~だよ。」「美味しそうな匂いがするね。」などと声かけしながら食べてもらう、食器の色を変えて食事を目立たせる


3. 実行機能障害が原因

・いくつかの料理を順序立てて食べられなくなる→ワンプレートや丼にしてみる


4. 注意障害が原因 

・食事に集中できない→カーテンを閉める、TVを消すなど、外からの情報を少なくする


といった感じです。なかなか難しいですが、皆さん色々と工夫され、その方に合った方法を見つけておられます。正直、私たち医師でも驚く時があります。

それでも改善がない場合は、うつ病や身体の病気など他に原因が隠れている場合もあります(「食欲が落ちた時、どうしたらいいの?」もご参照下さい)。


ご心配な点がありましたら主治医の先生、もしくは当サイトの医師相談へお気軽にご相談下さい。