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care-eco's magazine

2021/05/08

救急車、呼ぶ?呼ばない?

在宅医療を受けていると、主治医の先生から必ずと言っていいほど「いざという時、救急車は呼びますか?」と聞かれると思います。 

しかし、突然そのように聞かれても困惑してしまうのではないでしょうか?

近年、救急車は呼ばない方が良いという風潮もあるように感じますが、私自身はケースバイケースだと思っています。

今回は、救急車を呼ぶかどうかを判断する時に私が考えることをお伝えしようと思います。


■救急車を呼んだあとはどうなるの?

そもそも救急車を呼ぶとどうなるのでしょうか。

救急車が自宅に来ると、まず救急隊の方から救急車を呼んだ経緯や症状を聞かれます。

そして、救急隊の判断で適切と思われる救急病院へ搬送することになります。

救急隊が救急車内である程度の処置をしてくれる、と思われている方もいらっしゃるかも知れません。しかし、実は救急隊ができる医療行為というのは、今の法律では命に関わる最低限に限られています。

つまり救急車の役割は、一刻も早く患者さんを病院へ送り届けることになります。

要するに、救急車を呼ぶ=救急を受診する、ということになります。


■救急車の一番の使命は「命を救うこと」

救急車が作られたきっかけは、昭和の初めにかけて自動車が増え、交通事故で亡くなる方が急増したことでした。 東京消防庁HP

そのため、創設時からの救急車の使命は、「救える命を一人でも救う」というところになります。

もし心臓が止まっている状態ならば、心臓マッサージ、電気ショック、気管挿管(口から気管に管を入れること)が行われ、徹底的に蘇生が試みられます。

また、救急車を受ける救急病院側も同様に、患者さんを「治す」ことに全力を尽くすことを目的としています。そのため救急車で運ばれた方には、基本的にはあらゆる治療が行われることになります。

しかし残念ながら在宅医療を受けられている患者さんの多くは、もともとご年齢や持病といった背景があり、そういった治療で回復が期待できることはほとんどないというのが現実です。

実際に、70代以上の方が心臓が止まった状態で救急車を呼んだ場合、その後もとの状態に回復される方は数%という結果のようです。

令和2年版 救急救助の現況(消防庁)

むしろ、心臓マッサージによって肋骨がベコベコになってしまうなどの負担もあります。


■救急車を呼んだほうが良い場合

では、在宅療養をされている方は皆さん具合が悪くなっても救急車を呼ぶべきではないのでしょうか?

これについては色々な意見があると思いますが、私は呼んでもいい場合があると思っています。

先ほど申し上げたように、救急車=救急病院への受診ですが、在宅医療を受けている方の場合、ご自宅でもある程度の医療処置が受けられます。もちろん病院ほどの専門的かつ高度な処置はできませんので、治してほしいというご希望は叶えられません。

なので、何が何でも治りたい、治したいと望まれる方は救急車を呼ぶべきです(それでも治るかどうかは分かりません)。

治すのではなく、穏やかに最期の時を過ごしたい、というご希望であれば在宅医療でも十分にお手伝いできます。

しかし、不幸なことに中には在宅医療でも対応が難しいケースがあるのも事実です。

具体的には、「息が苦しい」「痛み止めを使っても痛みが強い」などという場合です。

この場合には病院での処置でないと、苦しみを取り除くことがなかなかできません。

私自身は、訪問診療患者さんの状態が変化したときに救急車を呼ぶかどうかの判断基準として、「患者さんに苦痛があるか」「もしあるなら、それは病院でないと解決できないか」の二つを考えています。もし二つとも答えが「はい」ならば、やむなく救急車を呼んで搬送をお願いします。もちろんその場合には病院へ直接ご連絡し、事情を説明します。


■救急車を呼ぶメリット、デメリット

長くなりましたが、救急車を呼ぶメリット、デメリットをまとめますと以下のようになると思います。


・メリット

1. 一刻も早く病院へ受診でき、高度な治療を受けられる

2. 万一搬送中に心臓が止まっても、蘇生処置(心臓マッサージなど)を受けられる

3. これらによって、寿命が延びる可能性がある


・デメリット

1. 心臓が止まった場合、心臓マッサージにより肋骨がベコベコになる

2. そのまま入院になり、自宅に戻れない可能性がある

3. 穏やかに過ごしたいと思っている方には負担が大きい


■一番大切なのは、「ご本人がどのように過ごしたいか」を考えること

以上、いざという時に救急車を呼ぶかどうかについて述べさせて頂きました。

難しい決定ではありますが、やはり一番はご家族の思い、そして「ご本人がどのように過ごしたいと思っているのか」に尽きると思います。

それを理解するためには、日頃から思いを話し合っておくことがもっとも大事なことです。

主治医の先生、関わって下さっている多職種の方たちとも話してみると良いと思います。


安間 章裕(アンマ アキヒロ)

日本内科学会認定総合内科専門医・日本感染症学会認定専門医

2010年 浜松医科大学医学部卒業。亀田総合病院総合診療科、感染症科での研鑽を経て、茨城で在宅医療の立ち上げを行う。その後、地元である静岡県で感染症業務、在宅医療に携わっている。