中心静脈栄養ってな~に?
「中心静脈栄養」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、口から食べたり飲んだりできなくなってしまった場合に栄養を摂る方法である、「人工栄養」の一つです。
ほかの人工栄養としては、胃ろうによる経腸栄養などがあります。
参考 :胃ろうってどんなもの?
ヒトは、高齢になるとどうしても自然と口から物が食べられなくなります。原因は、老衰であったり認知症であったり様々です。
また、胃腸のがんのせいで口から食べられなくなることもあります。
そのような時にどうするかを考えておかなくてはいけませんが、胃ろうと同様に選択肢として出てくるのが、この「中心静脈栄養」なのです。
今回は、この中心静脈栄養がどんなものかについてご説明させていただきます。
1.中心静脈栄養って?
一言でいうと、「点滴の栄養剤」です。
皆さんは点滴というと、TVドラマのように腕から管がつながっているのをイメージするかも知れません。
しかし意外かもしれませんが、実はあの点滴には栄養成分はほとんど入っていません。
水分と塩分、少しの糖分だけなのです。
なので、このタイプの点滴では栄養が足りなくなり、ずっとは生きていけません。
あのような、いわゆる普通の点滴を「末梢点滴」と言います。
手足のように、体の「末梢」から入れるからです。
それと反対に、栄養の点滴は体の「中心」の血管から入れます。
具体的には、首や足の付け根、胸にある太めの血管を指します。
これを「中心静脈栄養」といいます。
なぜこのように太い血管かというと、体が生きていくためには、糖分、脂肪、アミノ酸、ビタミンなど様々な栄養が必要です。
それらを混ぜた濃い液体を入れるためには、太い血管でないと耐えられないからです。
そのため、中心静脈栄養では普通の点滴より太い針(CVカテーテルといいます)を入れたり、さらに長期間になる場合には点滴用のリザーバー(CVポートといいます)を埋め込む手術を行います。
ただ、手術といっても大掛かりではなく、部分麻酔で30分〜1時間程度で終わるものです。
このように、点滴の栄養といっても、気軽にできるものではないのです。
では、この中心静脈栄養を行うことでどんなメリットがあり、デメリットがあるのか見ていきましょう。
2.メリット
・寿命が伸びる可能性がある
食べ物を全く口から摂れなくなった場合、一般的にヒトの寿命は1ヶ月以内と言われています。
中心静脈栄養を行うことで、生きていくのに必要な栄養を摂ることができるので、食べられない方の寿命を伸ばせる可能性があります。
ただし、認知症で食べられなくなった方に栄養を入れても、平均的には寿命が伸びなかったという研究結果もありますので、一概には言えないことに注意です。
・誤嚥を防げる可能性がある
中心静脈栄養を行うと口から食べ物を食べなくて良いので、食べ物が誤って肺に入ってしまう、いわゆる誤嚥を減らせる可能性があります。
胃ろうも口から食べ物を食べる必要が無くなりますが、胃ろうでも逆流などによる誤嚥は起こります。
その点では中心静脈栄養の方が誤嚥を減らせるかもしれません。
3.デメリット
・胃腸が弱ってしまう
中心静脈栄養では胃や腸といった消化管を全く使いません。
ヒトは胃腸を使わなくなることで様々な弊害がでてきます。代表的には、免疫が弱くなるということが知られています。
そのため現在では人工栄養の方法として、まずは胃腸を使う胃ろうなどが推奨されています。
・血糖値が上がることがある
ダイレクトに血管の中に栄養を入れるので、体が栄養を吸収しきれず、血糖値が上がってしまう場合があります。
・感染を起こすことがある
太い血管に点滴を刺しますので、長い期間ですと皮膚のバイ菌が血管内に侵入し、菌血症という重い感染症を起こすことがあります。
・長期間だとポートの埋め込み手術が必要
CVカテーテルを長期間使っていると、やがて感染を起こしやすくなったり、詰まってしまったりすることがあるため、頻繁に入れ換えが必要になります。
そのため先ほど申し上げたように、中心静脈栄養を長期間行う場合にはCVポートを埋め込むことが多いのです。
大掛かりではないとはいえ手術ですので、多少なりともリスクがあります。
・24時間点滴につながれる
これは末梢点滴でも同様ですが、1日に必要な栄養や水分の量を点滴で入れる場合にはどうしても時間がかかり1日中点滴が必要になります。
そのため、人によっては1日中点滴につながれることを不快に思う方もおられます。
以上のように、口から食べ物が食べられなくなった時の栄養方法として、中心静脈栄養が有効な場合があります。
ただ、上記のようにメリット・デメリットがありますし、状況によっては延命治療に該当する場合もあります。
選択する場合はご本人の希望も踏まえて、関係者内でよく検討する必要があります。
<終>
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
2022年にえん在宅医療クリニックを開業。
【みんなどうしてる?】嚥下食の作り方(3)
ご自宅でできる嚥下食、最終回です!
■圧力なべを活用する
圧力なべも使い方によっては嚥下食を美味しく作ることができます。
特に煮物は味も染みて一石二鳥です。
■デリソフター
デリソフターは、嚥下食を作るのに役立つ調理器具です。
その特徴は、「隠し包丁 × 圧力と蒸気の力 × "やわらか科学" の掛け合わせ」で、料理の見た目やおいしさはそのままで、柔らかく食べやすくしてしまう技術です。
https://gifmo.co.jp/delisofter/about
お値段は¥47,300(税込)とお安くはありませんが、手間と時間が節約でき、家族と同じものが食べられるという利点があります。
動画で使い方を紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=3Z8L6YR0JDA
■とろみ剤をつかったレシピ
飲み込みの力が大きく低下すると、食べ物を細かくするだけでなくトロミも付ける必要が出てきます。
とろみ剤を作っているニュートリーという会社が公開している、嚥下食のレシピです。
https://cookpad.com/kitchen/8317383
動画もあります。
https://www.youtube.com/user/NutriOfficial
ぜひ参考にしてみてください!
以上、嚥下食の作り方についてご紹介してきました。
いかがでしたでしょうか。
食事は生きていくのに必要であるとともに、毎日のことでもあります。
体に良いだけでなく、少しでも手軽に楽しくできたら良いかなと思います。
<終>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
【みんなどうしてる?】嚥下食の作り方(2)
前回に引き続き、ご自宅での嚥下食をご紹介します!
◆既製品を使う
・レトルトパウチ
嚥下食の準備が大変な時は、市販のレトルトパウチを活用するのが手です。
種類もたくさん出ています。
スーパー、ドラッグストアで売っています。
・お餅の嚥下食
お餅は、飲み込みの力が落ちた時に危険な食べ物の代表です。
しかし、お餅は大好きな人も多いですよね。
そんな方でも食べられるお餅があります。
もちろん、食感まで全く同じとはいきませんが、少しでもお餅の気分が味わえるのではないでしょうか。
・吉野家の牛丼
「安い、早い、うまい」牛丼でおなじみの吉野家さんは、嚥下食にした牛丼も販売しているそうです。
残念ながらうなぎは現在販売されていないようでした…
たまには贅沢に気分を変えて牛丼もいかがでしょうか!
次回も、ご自宅でできる嚥下食の工夫をご紹介します。
お楽しみに!
<続く>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
【みんなどうしてる?】嚥下食の作り方(1)
食事は生きていくのに必須であると共に、生活の楽しみでもありますよね。
ただ、ご年齢を重ねたり、ご病気をお持ちだったりすると、どうしても飲み込みの力(嚥下機能と言います)が衰えてしまいます。
その結果、食べ物をむせやすくなってしまい、ちっ息や誤嚥性肺炎を起こす原因となります。
そのため、まずは飲み込みの力を保つことがとても重要です
それでも飲み込みの力が落ちてしまった時には、食べ物を食べやすくするように工夫することで食べ物が安全に食べられます。
これを「嚥下食」といいます。
とはいえ、食事は毎日のことですから、嚥下食を準備するのも大変なことですよね。
そこで、ご自宅でできる少しでも手軽に嚥下食が準備できる方法を複数回にわけてご紹介したいと思います。
■作りおきして冷凍しておく
お母様をご自宅で介護されていたCare Livingさん。
丁寧に嚥下食を作られており、一見手間がかかりそうですが、一度にたくさん作っておいて冷凍するというのは効率的で良いですね。
あとは、食べるときに牛乳でのばすというのも、味がクリーミーになるだけでなく、エネルギーやタンパク質も取れて良さそうです。
さらに、野菜に含まれているビタミン類の吸収も良くなります。
飲み込みの力が落ちている方にとっては、エネルギーやタンパク質は、飲み込みの力を維持・回復させるためにも大切な栄養素です。
卵を混ぜたりするのも良いでしょう。
エネルギーを手軽にとるためには、アイス、プリン、キャラメルといった高カロリーなデザートを添えても良いと思います。
次回も、ご自宅でできる嚥下食の工夫をご紹介します。
お楽しみに!
<続く>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。
「胃ろう」ってどんなもの?
皆さんは、「胃ろう」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
また、聞いたことがある方は、胃ろうにどんなイメージをお持ちでしょうか?
近年は胃ろうに対して良くないイメージをお持ちの方も増えているように感じます。
今回は、「胃ろうってどんなもの?」「実際やった方がいい?だめ?」といった疑問にお答えしたいと思います。
<目次>
◆胃ろうってなに?
◆どうやって穴を開けるの?
◆何のためにやるの?
◆どんなメリットがある?デメリットは?
◆胃ろうは悪いこと?点滴の方がいい?
◆ご本人にとって何が大切か
◆胃ろうってなに?
まず、そもそも胃ろうとは何でしょうか。
胃ろうというのは簡単に言うと、お腹から胃に穴を開けて管を通し、口からでなく管を通じて外から胃へ、直接栄養剤を注入する方法です。
管は柔らかいプラスチックで出来ています。胃の中に入れてから水風船を膨らませて、抜けないようにします。
また、胃ろうは必要がなくなれば外すことができます。その場合、穴もふさがります。
◆どうやって穴を開けるの?
「お腹に穴を開ける」というと、とても怖い感じがしますよね。
大丈夫!?と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実は胃というのはみぞおちのすぐ裏にあるので、外から簡単に穴を開けられるのです(胃の場所によってはできない方もいます)。
しかも実際の穴は直径10㎜未満で、大きい穴ではありません。
大がかりな手術が必要なわけではなく、胃カメラを使って30分ほどでできます。
しかし、全く安全とも言えず、出血したり腹膜炎(お腹の中にバイ菌が入る病気)を起こして残念ながら亡くなる方が約1%ほどおられます。
◆何のためにやるの?
一言で言えば、口から食事を食べられない場合に、生きていくのに必要な栄養(カロリー、タンパク質、ビタミンなど)を摂るためです。
私たちは、ふつうに口から食事を摂って栄養にして生きています。
しかし、様々な理由で口から食事を摂ることができなくなってしまう場合があります。
例えば、飲み込みの力が弱ってしまった時です。
普段はあまり意識していないと思いますが、食べ物を飲み込むためには、のどの筋肉がきちんと正確に動く必要があります。
そうしないと、食べ物が肺に入ってしまい、窒息や誤嚥性肺炎の原因となります。
しかし脳の病気によるマヒなどで、のどの筋肉が動かなくなってしまうことがあります。
重度の場合には、口から食べ物を食べることが一切できなくなってしまうのです。
あとは、がんで胃や食道が詰まってしまう場合もあります。
胃ろうはもともと、そのような方たちが生きていけるように開発されたのです。
◆どんなメリットがある?デメリットは?
・メリット
口から食事が摂れなくとも栄養不足を防ぐことができ、寿命を延ばせる可能性があります。
また、栄養が十分摂れることで、じょくそう(床ずれ)を防げる可能性があります。
・デメリット
一番は、胃ろうの効果についてまだよく分かっていないことが多い、という点です。
実はこれまでの研究では、胃ろうによって寿命や生活の質が改善する、というデータは少ないのです。
これはあくまで平均的な結果なので、一概に全員に効果がないということではありませんが、「効果がある人もいるが、ない人も多いかも知れない」ということです。
あとは、先ほどもありましたが、胃ろうを作る際に1%の方が亡くなる可能性があります。
また、実は胃ろうを作った後も誤嚥は残ります(唾液や胃からの逆流物を誤嚥します)。そのため痰が増え、定期的に痰を取る処置が必要になる方もいます。
栄養剤を使用することにより、副作用で下痢する方もおられます。
◆胃ろうは悪いこと?点滴の方がいい?
このようなメリット、デメリットがある胃ろうですが、実際やった方がいいのでしょうか。
実は、胃ろうの良し悪しを判断することは非常に難しいのです。
なぜなら、胃ろうを始めた後の経過が人によって全然違うからです。
例えば、脳梗塞によるマヒで口から食事が食べられない人が、胃ろうをしながら栄養を摂りつつリハビリを頑張り、また口から食べられるようになって胃ろうを外せた、という人もいます。
このような場合は胃ろうをやってとてもよかったと思います。
一方で、認知症が進んでしまい意識がなくて食べられないような場合には、意識がないまま胃ろうから栄養を続けられることが苦痛に思う方もいらっしゃるかも知れません。
このような場合には、いわゆる「延命治療」に該当する可能性があります。
私自身は、延命治療が必ずしも悪いことだとは思っていません。
なぜなら、お別れまでにある程度の準備期間が必要な場合もあるからです。
延命治療を選択して後悔されたご家族もいらっしゃれば、延命治療を選択せずに、ご家族の心の準備ができる前にお別れになってしまったケースもありました。
このように、胃ろうをすべきかどうかには正解がなく、その人ごとにベストな方法を考えていかなければなりません。
大切なことは、「これからどんな経過をたどっていくのか」という鮮明なイメージを、ご本人、ご家族、関係者が共有し、それぞれの思いを話し合うことだと思っています。
また、「胃ろうは延命治療だから良くないと聞いた。点滴の栄養をやってほしい。」というお話を伺うことがよくあります。
確かに栄養剤を点滴する方法(中心静脈栄養といいます)もありますし、点滴の方が良い場合もあります。
ただ、点滴での栄養であっても、回復の見込みがない方にする場合には延命治療になり得ます。
また、点滴の栄養でもデメリットがあります。
一つは、点滴のところからバイ菌が入り、感染を起こす危険があること、もう一つは、点滴に時間がかかるため、1日のうちほとんどが管につながった状態になってしまうことです。
ちなみに現代の医療常識では、胃腸に問題がなければ、まずは胃ろうなどの胃腸からの栄養剤から始めることとされています。
このように、「胃ろうがダメで点滴は良い」ということではなく、「口から食べられない時に外から栄養を入れるかどうか」が問題なのです。
◆ご本人にとって何が大切か
今までお話したように、口から食べられなくなった時にどうするかを決めるのは正しい答えがなく、とても難しいことです。
一つの目安は、「今後回復する見込みがどれくらいあるのか」です。回復する見込みが高いのであれば、積極的にやってもよいのかなと思います。
これについては、主治医の先生方に聞いてみるのが一番です。
難しいのは、「回復する見込みがない」時です。
延命治療がすべて悪いわけではありませんが、場合によってはご本人が望まない延命治療につながる可能性があります。
大切なことは、ご本人が何を望んでいるか、何を大切にしたいかと考えることなのだな、と日々感じます。
栄養を摂るということは、命に直結します。
ご本人、ご家族、そのほかの関係者みんなで話し合って、納得できる最善の方法を選択するしかないと思います。
<終>
今の介護度がどれくらいなのか、おおよそのシミュレーションが可能です。
お一人お一人によって、適切なサービスの組み合わせや内容は変わります。
ケアマネジャーにご相談頂くか、ケアエコの相談サービスをご利用ください。